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大阪地方裁判所 昭和63年(ワ)1738号 判決 1990年6月15日

原告

生和実

被告

大本正軌

ほか二名

主文

一  被告らは、各自、原告に対し、金四〇万一五七二円及びこれに対する昭和六二年七月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二〇分し、その一を被告らの連帯負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、各自、原告に対し、金八一八万円及びこれに対する昭和六二年七月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、駐車場内で自動車と衝突して負傷した原動機付自転車の運転者が、自動車の運転者らに対して損害賠償を請求し、その責任の有無が争われた事案である。

一  争いのない事実

次の事故が発生した。

1  日時 昭和六二年七月七日午後五時五七分頃

2  場所 大阪府吹田市千里万博公園三番 南第一駐車場(以下「本件駐車場」という。)

3  加害車 普通乗用自動車(なにわ五五た五二二二号)

右運転者 被告大本正軌(以下「被告正軌」という。)

右所有名義人 被告大本重子(以下「被告重子」という。)

4  被害車 原動機付自転車(登録番号なし)

右運転者 原告

5  態様 原告が、本件駐車場内において、被害車に乗車して走行していたところ、加害車と衝突して転倒し、負傷した。

二  争点

1  原告は、被告正軌及び被告重子に対して自賠法三条に基づき損害賠償を求めるとともに、被告第一建築サービス株式会社(以下「被告会社」という。)に対し、被告正軌は被告会社に勤務する警備員であり、その業務として本件駐車場内の走行車両に注意を与えようとして本件事故を起こしたものであるから、被告会社は使用者責任を負うと主張する。

2  被告らは、損害額について争うほか、次のとおり主張して被告らの責任の有無を争い、仮に被告らに責任があるとしても大幅な過失相殺がなされるべきであると主張する。

(一) 被告正軌及び被告重子の責任

本件事故は、被告正軌が本件駐車場で加害車を運転中、暴走行為をしていたオートバイの集団の中から、突然、被害車が大きくコースを外れ、加害車の進路前方を塞ぐ形で突つ込んできたため、被告正軌が危険を感じて停止したところに、被害車が衝突してきたものである。

このように、本件事故は、原告の一方的過失によつて生じた自損事故というべきもので、被告正軌には過失はなく、また、加害車に構造上の欠陥または機能の障害もなかつたから、右被告両名は、自賠法三条但書によつて免責される。

(二) 被告会社

被告正軌は、万博公園プールの警備業務終了後、本件駐車場に駐車してあつた加害車に乗車して警備隊本部に戻る途中に、右(一)のとおり本件事故にあつたものである。

このように、本件事故発生について被告正軌に過失はなく、また、本件事故が被告会社の業務の執行中に発生したものということはできない。

第三争点に対する判断

一  被告正軌及び被告重子の責任

1  加害車の所有名義人が被告重子であることは当事者間に争いがなく、証拠(被告正軌53~58項)によれば、本件事故当時、主として被告正軌が通勤及び同人の仕事に加害車を使用し、被告重子はほとんど加害車を運転したことがなかつたことも認められるが、被告重子と被告正軌は夫婦であり、加害車は実質上両名の共有であつたことが認められるので、被告正軌及び被告重子は、ともに加害車について運行の支配を有し、その利益を享受していたものと認めるのが相当である。

右事実によれば、被告正軌及び被告重子は、自賠法三条に基づき、免責の抗弁が認められない限り、いずれも本件事故により原告が被つた損害を賠償する責任がある。

2  そこで、被告正軌及び被告重子の免責の主張について判断する。

(一) 前記第二の一の争いのない事実に、証拠(甲一ないし四、検甲一、二、乙一、四、検乙一ないし二八、藤井証言、原告第一、二回、被告正軌)(ただし、乙一、四、被告正軌については、いずれも後記信用しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる(なお、各項末尾の括弧内に掲記した証拠は、当該事実の認定に際し特に用いた証拠である。)。

(1) 本件駐車場は、日本万国博覧会記念公園(以下「万博公園」という。)の南側に位置する東西約一五〇メートル、南北約五〇〇メートル、収容可能台数約一三〇〇台の有料駐車場であり、本件駐車場及びその付近の状況は別紙図面のとおりである。

本件駐車場中央付近にある中央分離帯は、地面よりやや高くつくられているが、他の部分は、平坦でアスフアルト舗装されており、駐車区割りは白線でなされている。本件駐車場内には、見通しを妨げるような障害物はない。

(乙一別図1、検甲一、二)

(2) 本件駐車場南東にある車両入口は午後五時ないし六時頃に閉められ、その時間帯になると、駐車車両も少なくなるため、本件事故当時、少年等がオートバイ等に乗つて集まり、本件駐車場内においてしばしば暴走行為を繰り返していた(なお、本件駐車場には、「不法入場並びに場内での暴走行為」を禁ずる旨の看板が立てられているが、それが本件事故前から設置されていたものかは、本件証拠上明らかではない。)。

(乙一4項、検乙一八、二一、藤井証言8、10項、被告正軌9、13、18、35項)

(3) 原告(昭和四四年七月一五日生まれ、本件事故当時高校三年生)は、高校一年生のときに原動機付自転車の運転免許を取得したが、その後、交通違反を繰り返して免許停止処分を受け、さらに右免許停止中に原動機付自転車を運転したため、昭和六一年九月に免許を取り消され、本件事故当時は無免許であつた。しかし、原告は、廃車にした被害車(登録なし)を譲り受けて所有し、駐車場等でときどき乗り回していた。

昭和六二年七月七日(本件事故当日)午後五時四五分頃、原告は、本件駐車場南西にある出入口から本件駐車場内に被害車を持ち込んだが、本件駐車場には既に一〇人程度の者が集まつてオートバイ等を乗り回しており、原告も、数台のオートバイとともに、別紙図面赤線のようなコースで走行を開始した。なお、当時、本件駐車場には、端のほうに数台の駐車車両が残つていたが、原告らが走行していた付近には駐車中の車はなかつた。

(藤井証言9、10項、原告第一回63・12・1付1、3、7、8項、同元・3・14付3~5、17項)

(4) 被告正軌は、後記のとおり、プール警備の仕事を終え、加害車に乗つて万博公園内にある万博会場警備隊の事務所に戻る途中であつたが、本件駐車場内において、オートバイが暴走行為をしているのに気付き、これに注意を与えるため、前照燈をつけて、本件駐車場北東にある車両出口(別紙図面<1>)から本件駐車場に入り、一旦<2>付近まで進行して、そこに停止した。そして、その後、被害車らの走行を妨害しようとして、<2>付近から転回して、蛇行運転をしながら被害車らの進路前方に進んだところ、被害車の前方を走行していた三台のオートバイのうちの二台は右に、一台は左によけた。原告は、加害車が自車進路前方に来ているのを発見し、あわててハンドルを右に切つて避けようとしたが、被告正軌も、急ブレーキをかけるとともにハンドルを左に切つたため、別紙図面<×>付近において、加害車(<3>)左前部と被害車左側面とが衝突し、原告は跳ね飛ばされて地面に転倒し、加害車は被害車を巻き込んだまま、少し進行して停止した。

なお、本件事故直前の被害車の速度は時速四〇キロメートル程度であり(加害車の速度は本件証拠上明らかにしえない。)、また、原告は、加害車が<2>付近に停止していたことに気付いておらず、加害車が接近してきたことも、衝突直前になつてはじめて気がついたものである。

(検乙二八、藤井証言4~7、9~11項、原告第一回63・12・1付8、12、14項、同元・3・14付23、27~30項)

(5) 本件事故当時の天候は晴れで、本件駐車場の地面は乾燥しており、また前照燈が必要なほど暗くはなつていなかつた。

(甲一、藤井証言17項)

(二) 以上の事実が認められるところ、被告らは、本件事故の態様等について右認定と異なる主張をし(前記第二の二2(一))、乙一、四号証、被告正軌本人尋問の結果中にこれに副う記載部分ないしは供述部分が存する。

しかしながら、まず、被告正軌は、本件事故からそれほど時間がたつていない時期に、被告会社の上司に対し、「本件駐車場の付近に駐車していた加害車に乗つて帰るため、単車の集団の進路とは約一〇メートルくらい離れて出口方向に向かつて進行していたところ、付近において、単車の集団から突然一台が離れて加害車の進路を阻むような恰好で向かつてきたので、危険を感じて停車した瞬間、被害車が左前部に接触した。」旨説明していたところ(乙一1(5))、本件訴訟提起後になつて、「数十名の若者たちがオートバイで暴走行為を繰り返していたので、加害車に乗つて、C付近に行き、そこで数人の若者に注意し、さらに被害車らの集団の近くまで行つて注意しようと思つて進行していたところ、集団の中から被害車一台がコースを外れて加害車に向かつてきた。」と述べるなど(乙四の1~3項、被告正軌3~5項)、重要な部分に大きな食い違いが認められ、その信用性について疑問を抱かせるものである。これに対し、藤井は、本件事故の状況及びその前後の状況について自己が目撃したことを具体的かつ詳細に証言し、その内容に特に不自然な点は窺えないうえ、同人が本件事故から約五か月後に原告代理人に説明した内容(甲三)とも符合し、藤井が原告の中学時代からの友人であることを考慮に入れても、本件事故に関する藤井証言は十分信用することができると認められる。したがつて、被告正軌の右認定に反する供述部分等は信用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠は存在しない。

(三) 右認定事実によれば、被告正軌は、被害車らの走行を妨害しようとして蛇行運転をしながら被害車らの進路前方を塞ぐ形で進行し、かつ、被害車が加害車を避けようとして進行した方向に加害車を進行させたため、被害車と衝突したものと認められ、本件事故発生につき、被告正軌に過失があつたことは明らかである。したがつて、その余の点について判断するまでもなく、被告正軌らの免責の主張は採用することはできない。

二  被告会社の責任

1  本件事故当時、被告正軌が被告会社に雇用され、警備員として勤務していたことは当事者間に争いがなく、本件事故発生につき、被告正軌に過失があつたことは前認定のとおりである。

2  そこで、本件事故が被告会社の業務執行中に発生したものであるかを検討する。

(一) 証拠(乙一ないし五、藤井証言、古隅証言、被告正軌)(ただし、乙四、被告正軌中の後記信用しない部分を除く。)によれば、次の事実が認められ、この認定に反する乙四及び被告正軌の記載部分ないし供述部分は他の証拠に照らし、信用することができない(なお、各項末尾の括弧内に掲記した証拠は、当該事実の認定に際し特に用いた証拠である。)。

(1) 被告会社は、施設の清掃、保安、ビルの冷暖房運転管理等の仕事を業とする会社であり、万博公園について、同公園内の緑地の大部分や通路等のほか、一部の施設について保安業務を委託され、万博会場警備隊(警備に従事する者約二〇名)として、万博会場内の監視、巡回、立哨、受付等の業務を行つていた。

そして、被告会社は、昭和六二年になつて、日本万国博覧会記念協会(以下「万博協会」という。)から、本件駐車場に隣接する万博プールの警備業務も委託されるようになり、<1>プール内施設、建築物及び各種器材等の火災、盗難、破損等の事故防止及び緊急措置、<2>プール内の施設入場者及び自転車の誘導、混雑整理、事故防止及び救急措置、<3>車両出入門等における出入管理、<4>不法行為に対する警戒措置、<5>禁止行為、危険行為の発見及び排除等の業務を行つていた。

(乙一2、3項、乙二、古隅証言29、30項)。

(2) 本件駐車場は、万博協会が所有しているが、これを株式会社エキスポランドが借り、同社は、その管理業務を社団法人関西環境開発センターに委託していた。そして、同センターは、本件駐車場の車両出口及び歩行者用通用門の閉鎖の業務を被告会社に委託し(車両入口については、駐車場の業務が終了した後、同センターの係員が閉鎖、施錠していた。)、被告会社の警備員が、パトロール車による万博公園内の巡回業務中、午後八時ないし九時頃に本件駐車場に車両が残つていないことを確認のうえ、閉鎖及び施錠を行つていた。

なお、万博プールには専用駐車場がないため、その入場者の多くが本件駐車場を利用しており、本件駐車場近くには「エキスポランド・万博プール駐車場」という案内板も設置されている。

(乙一4項、乙五、検乙二一、古隅証言2~7項)

(3) 被告正軌は、昭和六一年三月、被告会社の万博警備隊員として雇用され、会場内警備等の仕事をしたのち、本件事故当時は、プール警備の業務に従事していた。

万博警備隊の業務につく場合は、通常、万博公園内の万博警備隊事務所に出勤して制服に着替えたのち、移動用のバスに乗つて各ポジシヨンに配置されることになつており、自家用車で通勤したり、事務所から各配置先への移動に自家用車を使うことは禁止されていたが、被告正軌は、加害車で通勤し、事務所とプールの間(所要時間は車で五ないし一〇分)の往復に加害車を利用していた。

(乙一1(3)項、古隅証言18、19、22項)

(4) 本件事故当日、被告正軌は、午後六時頃まで万博プール警備の業務に従事し、加害車で警備隊事務所に戻る途中、本件駐車場内において集団で暴走行為をしていることに気付いた。被告正軌は、まだプールの入場者や一般利用者の車が残つていて、このようなことは非常に危険であると考え、これを注意しようとして本件駐車場に入り、前認定のとおり、加害車らの走行を妨害しようとしたものである。

被告正軌は、それまでに、駐車場における暴走行為を発見したら注意するように被告会社担当者から言われたこともあり、同被告自身、プールの管理(警備)業務には、施設外の巡回も職務となつており、暴走族が走つているとプールを行き来する子供に危険であるので、これを注意することはプールの管理業務に含まれると考えていた。なお、被告正軌は、本件事故当時、制服を着用していた。

(乙一、四、被告正軌2、15、39、41、49項)

(二) 右認定事実に、前記一2(一)で認定した事実によれば、被告会社は、万博公園内の緑地、通路等の広い範囲について保安業務を委託されて公園内の監視、巡回、立哨等の業務を行つていたほか、プール施設について、その入場者の事故防止等の業務を委託されていたものであり、このようなことからすれば、プールに隣接し、その入場者の多くが利用する本件駐車場内において、オートバイ等による暴走行為を発見した場合、万博公園内の保安業務の一環として、あるいはプール入場者の危険防止のため、これを制止する行為は、客観的外形的にみて、被告会社の事業の執行につきなされた行為といつて妨げないと考えられる。前認定のとおり、本件事故は自家用車によるものであり、被告会社としては業務に自家用車の使用を禁じていたことも認められるが、前認定の本件事故に至る経緯、本件事故の態様等を考慮すると、そのことをもつてしても、いまだ右結論を左右するに足りないというべきである。

3  以上によれば、被告会社は、民法七一五条に基づき、本件事故により原告に生じた損害を賠償する責任があると認められる。

三  損害額

1  原告の受傷内容、治療の経過及び後遺障害

証拠(甲五、六、二三、二七ないし二九)によれば、次の事実が認められる。

(一) 受傷内容及び治療の経過

原告は、本件事故により、左大腿骨骨幹部骨折、左腓骨骨折、左膝挫傷の傷害を負い、友紘会病院において次のとおり治療を受けた。

(1) 昭和六二年七月七日から同年一一月六日まで入院(一二三日)

(2) 昭和六二年一一月一一日から昭和六三年九月二日まで通院(実日数七日)

(3) 昭和六三年九月一二日から同月二六日まで入院(一五日)

(4) 平成元年一月二〇日から同年一〇月一七日まで通院(実日数三日)

(二) 後遺障害

原告は、平成元年一〇月一七日、右友紘会病院の医師により、左大腿骨短縮による脚長差一センチメートル、股関節の可動域制限、長時間歩行及び運動時の左大腿部痛の後遺障害を残して症状が固定したものと診断され、本件後遺障害は、自動車保険料率算定会損害調査事務所により自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一三級九号に該当するとの認定を受けた(一三級九号の認定を受けたことは当事者間に争いがない。)。

なお、原告は、本件後遺障害は、股関節の障害及び左下肢の疼痛等も存するので少なくとも一二級に該当する旨主張するが、甲二七、原告第二回2、3項によれば、股関節の可動域の制限の程度はいまだ関節の機能に障害を残す程度のものとは認められず、また、左大腿部痛の程度も重いものということはできないので、本件後遺障害が一三級九号を超える程度のものと認めることはできない。

2  治療関係費 四五万七七二〇円

(一) 治療費 一三万五四二〇円

(1) 第一回の入通院分 九万三三九〇円

証拠(甲七ないし一三)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和六一年七月七日から昭和六二年一一月二六日までの治療費として、右金額を負担していたことが認められる。

(2) 第二回の入通院分 四万二〇三〇円

証拠(甲一六ないし二〇、二二)によれば、原告は、昭和六三年九月一二日以降の治療費として。右金額を負担したことが認められる。

(二) 入院雑費 一五万一八〇〇円

原告は前記のとおり合計一三八日間入院したところ、その間、少なくとも一日当たり一一〇〇円の雑費を要したと推認できる。

(三) 付添看護費(請求額一八万五〇〇〇円) 一六万六五〇〇円

証拠(甲五、原告第一回63・12・1付18、23項)によれば、原告の入院中の昭和六二年七月七日から同年八月一〇日までの三五日間と昭和六三年九月一三日及び同月一四日の二日間原告の母親が付き添つたことが認められるところ、原告の受傷内容等から付添看護の必要性が認められ、また、近親者の付添費は一日当たり四五〇〇円とするのが相当であるから、右付添看護費は三七日間分一六万六五〇〇円となる。

(四) 松葉杖借用料 二〇〇〇円

証拠(甲一一、一五)によれば、原告は前記治療期間中、松葉杖の使用を必要とし、その借用料として右金額を負担したことが認められる。

(五) 診断書料 二〇〇〇円

証拠(甲二一、二三)によれば、原告が診断書料として右金額を負担したことが認められる。

3  レントゲン写真複写費 六四八〇円

証拠(甲三一、原告第二回11項)によれば、本件後遺障害の等級認定をしてもらうに当たり、患部のレントゲン写真の提出を求められ、そのための複写費用として右金額を要したことが認められるので、これを本件事故と相当因果関係に立つ損害と認める。

4  通学費用 二万三七六〇円

証拠(原告第一回63・12・1付17項)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故当時、茨木西高等学校普通科の三年生であり、第一回目の入院中の昭和六二年九月一日から同年一一月六日までのうちの五四日間、前記病院からバスで通学し、一日当たり四四〇円(往復)の交通費を要したことが認められる。

5  自動二輪車の免許取得費用(請求額八万六四〇〇円) 〇円

証拠(甲二四、原告第一回63・12・1付24項)によれば、原告は、自動二輪車(中型二輪)の運転免許を取得するため、公安委員会指定の教習所に入り、昭和六一年七月二四日に教習を終え、同日、卒業検定に合格したこと、右教習に当たり入学金として二万五〇〇〇円、教習費として五万五〇〇〇円を要したことが認められるところ(教習所へ通うために要したという交通費六四〇〇円については、これを認めるに足りる証拠はない。)、原告は、昭和六二年の夏休みに法令試験を受ける予定であつたところ、前記受傷のために受験が不能となり、右免許取得費用に相当する損害を被つたと主張する。

しかしながら、前認定のとおり、原告は、交通違反を繰り返して免許停止となり、その停止中にさらに原動機付自転車を運転して免許を取り消されたものであることからすれば、原告の場合、道路交通法施行令三三条の二に定める累積点数は相当あつたものと推認され(これを覆すに足りる証拠は存しない。)、原告は同法九〇条一項ただし書に定める免許を与えないこととされている者に該当すると考えられるのみならず、仮に免許を保留されるに過ぎなかつたとしても、原告が昭和六二年七月二四日までに同法八九条に定める運転免許試験に合格したであろうことの蓋然性を認めることもできないから、右教習費用を損害と認めることはできない。

6  休業損害 一〇万円

証拠(原告第一回63・12・1・付21、22項)によれば、原告は、高校卒業後中川無線で配達等のアルバイトをして一日当たり六〇〇〇円程度の収入を得ていたところ、前記抜釘手術のため、入院の前日から退院後約一週間就労不能となり、その間、少なくとも一〇万円を超える休業損害を受けたことが認められる。

7  後遺障害による逸失利益(請求額八一〇万三四二四円) 〇円

本件後遺障害の内容、程度は、前記三1(二)のとおりであるところ、証拠(原告第二回2~5、14、18~23項)によれば、原告は、抜釘手術後一週間ほどしてから園田組に土木作業員として勤め始め、仕事で重い物を持つたりすることもあること、そのような仕事や長時間の歩行後には足が痛んだり、また、脚長差による歩行時の不便は若干あるが、日給で約一万一〇〇〇円、月収にして約二五万円の収入を得ており、その収入は他の作業員と同じであること、原告は現在の仕事を当分続ける予定であることが認められる。

右認定の事実に、原告の年齢に対応する男子労働者の平均賃金(症状固定時である昭和六三年賃金センサス第一巻第一表・産業計・企業規模計・学歴計二〇歳から二四歳までの年収額二六六万一一〇〇円)を併せ考慮すると、原告は、本件後遺障害により、労働能力を一部喪失し、現実具体的に財産上の損害を被つているものとは認め難く、将来の減収を認めるに足りるだけの十分な事情も存しないから、原告について、後遺障害による逸失利益を認めることはできないというべきであり、若干の苦痛、不便を感じながら仕事をすることを余儀なくされていること等については、これを慰謝料算定に当たり斟酌するのが相当である。

8  慰謝料(請求額傷害分二〇〇万円、後遺障害分二〇〇万円) 三六〇万円

以上認定の諸般の事情を考慮すると、本件事故によつて原告が受けた肉体的、精神的苦痛に対する慰謝料としては、傷害分、後遺障害分を合わせて三六〇万円とするのが相当である。

(以上2ないし8の認容額合計 四一八万七九六〇円)

四  過失相殺

1  前記一2で認定した事実によれば、被告正軌は、本件駐車場内における暴走行為を制止しようとしたものであるが、蛇行しながら被害車らの進路前方に出るといつた制止行為としては度を過ぎた危険な行為を行い、その結果、本件事故を惹起したものであり、加害車と被害車の車種の違い等を考慮に入れると、その過失の程度は大きいものというべきである。

他方、原告としても、免許を取り消されて本件事故当時無免許であつたにもかかわらず、本件駐車場に無登録の原動機付自転車を持ち込み、仲間とともに危険な暴走行為を行い、かつ、前方注視を怠つて加害車を発見するのが遅れたことにより本件事故に至つたものであるから、損害の公平な分担を図るため、これらの点を原告の落ち度として斟酌するのが相当である。

2  右の諸点並びに前記認定の諸般の事情を考慮すると、過失相殺として、原告の損害額から三〇パーセントを減額するのが相当である。

したがつて、被告らが原告に対して賠償すべき損害額は、二九三万一五七二円となる。

五  損害の填補

1  原告は、本件損害賠償の填補として、自賠責保険から、次のとおり合計二五七万円の支払いを受けたことは当事者間に争いがない。

(一) 傷害分として一二〇万円

(二) 後遺障害分として一三七万円

2  右の金員を控除すると、被告らが原告に対して賠償すべき残損害額は、三六万一五七二円となる。

六  弁護士費用(請求額七五万円) 四万円

本件事故と相当因果関係にある弁護士費用相当の損害額は、四万円と認めるのが相当である。

(裁判官 二本松利忠)

別紙 <省略>

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